『スパイダーマン:ホームカミング』はMCUに生まれた”パンクロック”だ!挿入歌から読み解く伝説的バンドとの関係

2017年8月11日より公開されている『スパイダーマン:ホームカミング』をご覧になった方々は、「Hey! Ho! Let’s go!」という掛け声が特徴的な挿入歌を耳にしたことだろう。

音楽やパンクロックに詳しい方はお気付きの方も多いかとは思うが、あの曲は1974年に結成された元祖パンクロックバンド”ラモーンズ”の1stアルバム『The Ramones(邦題:ラモーンズの激情)』の1曲目に収録されており、同バンドの代表曲でもある『Blitzkrieg Bop』という曲である。

ラモーンズとこの曲の背景にあるストーリーを紐解いていくと、まさにこの伝説的パンクバンドこそが、今作におけるスパイダーマンそのものであり、そしてスパイダーマンこそがMCUという映画世界に生まれたパンクロック的存在に思えてならないのだ。

この話を始めるにあたり、映画ファン・MARVELファンの方々にはまずはバンドの出自について知っていただきたい。

注意:この記事では、『スパイダーマン:ホームカミング』のネタバレ内容が含まれております。映画を鑑賞されていない方はお気をつけください。

ラモーンズの出自〜クイーンズで生まれたヒーローバンド〜

まずは、ラモーンズというバンドはスパイダーマンと同じくニューヨークのクイーンズ出身である。1974年に当時クイーンズに住んでいたジョーイ・ラモーン(本名ジェフリー・ハイマン)、ジョニー・ラモーン(本名ジョン・カミングス)、ディー・ディー・ラモーン(本名ダグラス・コルヴィン)、トミー・ラモーン(本名トーマス・アーデライ)の4人によって結成された。(※1)

 当時の60年代後半から70年代のロックはビートルズの隆盛に代表されるように、単なるロックンロールというジャンルを超えて様々な思想や文化を吸収していき、アート的な方向へ劇的な進化を見せていた(※2)。そういった流れとは逆行するように、ラモーンズの音楽はテクニックや音楽的表現技法などには構わず、”ロックンロールの基本的要素3コードで進行された単調で原始的な楽曲構成”、”単純な演奏”、”攻撃的なサウンド”などといった要素から構成された衝動的なロックであった。その新しいロックのスタイルは、当時音楽的に多様化していったロックミュージックの中では、評論家たちからくだらないものを意味する「punk」と呼ばれ批評された。

しかし、そんな音楽を奏でる彼らがバンドを結成するきっかけとなったのは、初期のビートルズのようなシンプルでポップなロックンローラーたちである。彼らが幼少期に耳にしたようなロックンロールのポップスターへの憧れから、バンドは結成されたのだ。(『ラモーンズの激情』の中で60年代に活躍したロックンロールミュージシャンの一人であるクリス・モンテスの『Let’s Dance』をカバーしているところからも、そういった憧れをうかがい知ることができる。)

だが、バンドを始めたばかりの彼らにはそのような音楽の模倣ができるわけもなく、自分たちなりにロックンロールを再現するために、ロックンロールという音楽の原始的な要素を抽出して、そこに “出来るサウンド”として結果的に生まれたのが前述のような彼らのスタイルである。その荒削りなプレイスタイルと、シンプルで衝動的な音楽性は唯一無二の存在となり、”punk”というひとつのスタイルを作り上げるに至ったのである。

彼らの存在によって生まれたパンクロックは海を渡り、イギリスでセックスピストルズなどの伝説的パンクロックバンドを生み出すきっかけとなった。こうして、クイーンズのローカルバンドのラモーンズが生み出したパンクロックは、世界に広まり、現在ではロックミュージックの一つのジャンルとして市民権を得ているのである。

ラモーンズとMCU版スパイダーマンの共通点

さて、ここで映画の話に戻ろう。今作のスパイダーマンは、すでに存在する世界的ヒーローアベンジャーズに憧れている。トニー・スタークに『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』にてスカウトされたピーターは浮かれながらも、憧れのアベンジャーズに招集されるようにヒーローの”真似事”のように自分なりに町の平和のために奮闘する。だがしかし、劇中ではそれが空回りを起こし、挙げ句の果てにはトニー・スタークからはスーツを取り上げられてしまう。

まさにその姿は、憧れの先代ロックンロールミュージシャンを模倣しようとしていたラモーンズの姿が重なって見える。

『Blitzkrieg Bop』が流れ出すシーンは、まさにピーターが町の平和のために”自分なりのやり方”でヒーロー活動を行い、奮闘をしているシーンである。世界を救う大規模な戦いをするアベンジャーズに比べて、その活動は街角での小さな事件の範囲に見えるが、彼のヒーロー活動の根幹は、ある種正義感の最も基本的で原始的な思想である”困っている人を助ける”というところにある。ロックンロールの原始的でピュアな部分の再解釈により唯一無二の音楽を作りあげたラモーンズに対し、ピーターは正義感の原始的な思想を経て、劇中で”親愛なる隣人”という新たなヒーロー像を作り上げていった。

曲についてもう少し掘り下げてみると、さらにこの曲に込められたメッセージがピーター・パーカーの心理と重なって見える。

曲に込められたメッセージ

『Blitzkrieg Bop』のイントロとエンディングで聞こえる「Hey! Ho! Let’s go!」という掛け声について、ボーカルのジョーイ・ラモーンはこう語っている。

革命を告げるときの声なんだ。DIY(Do it your self)の精神をパンクスたちに告げた戦闘命令でもあるんだ。(※3)

“電撃作戦(Blitzkrieg Bop)”と銘打たれたこの曲には、パンクス達が今こそ立ち上がるべきであるという号令と、自立の為の意識革命の叱咤激励のメッセージが込められている。

この曲が流れているポイントをおさらいしてみると、このラモーンズのメッセージがピーター・パーカーの心理変化に呼応して重要な意味を持ってくる。

まずは前述のように、ピーターが町で奮闘するシーンである。ここでの「Hey! Ho! Let’s go!」という声は、「アベンジャーズに招集されなくても、自分なりに平和を守るんだ」という ピーターのDIYの精神を意味するように思える。町を守る新米ヒーローとしての心理描写とリンクする。

そして劇中では、ピーターがアベンジャーズへの加入を断ったシーンの後に、もう1度エンディングにてこの曲が流れる。このときのピーターは単純なアベンジャーズへの憧れから始めたヒーロー活動からワンステップ進み、”親愛なる隣人”というヒーローとしての新たな意識に目覚めている。「これは試験でしょ?」とトニーに確認して、なおもアベンジャーズに入りたいような意志は見せていたが、クイーンズに戻るところを見ると、やはりヒーローとしての自覚が芽生えたように見える。ここでのピーターはDIYの精神がさらに進み、自らに対して”親愛なる隣人”としての意識革命が見られるのだ。エンディングの「Hey! Ho! Let’s go!」はピーターの意識革命の声なのである。

『Blitzkrieg Bop』ではイントロとエンディングにて「Hey! Ho! Let’s go!」というチャントが配置されているが、この曲の構成を、挿入箇所を映画のヒーロー活動の導入(イントロ)と エンディングに配置することで再現しつつ、曲自体に込められたメッセージを主人公の心理描写と効果的に照らし合わせているのだ。

当時の音楽情勢とMCUのヒーロー情勢

ラモーンズが生まれた当時の音楽情勢について考えてみても、本作におけるスパイダーマンのポジションとリンクしているように見受けられる。

前述のように、60年代〜70年代のロック情勢は様々な思想が絡み合いながら、アート傾向が強くなっていっている。特に、ベトナム戦争という歴史的事件へのカウンターカルチャーとしてヒッピー文化が栄えたことから、反戦的なメッセージと共にサイケデリックロックなどが盛り上がった。そんな中ラモーンズが目指したロックは自分たちがレコードで幼少期に聴いていたような古典的でポップなロックであり、つまりその結果生まれたパンクロックという音楽ジャンルの本来的な意味は、難解化されたロックシーンに対して生み出された荒削りな形でのロックンロールの復古運動であった。

今作『スパイダーマン:ホームカミング』はシビルウォーの後の出来事である。シビルウォーという歴史的事件を経て、かつて世界を救ったヒーローチームアベンジャーズは各々の思想・主義のぶつかり合いから、袂を分かち、離散していった。シビルウォーがヒーロー達に与えた影響は、ベトナム戦争が音楽に与えたそれに近い。ロックはベトナム戦争をきっかけに反戦思想を含むようになり、ポップミュージックという枠を超えて、表現の枠を広げながらも複雑な方向へと枝分かれしていった。MCU世界も、シビルウォーを経てもはやヒーロー達は一枚岩ではなく、複雑な方向へと向かっていたのだ。そんな中、ピーターは自分なりのヒーロー活動を経て、原始的で基本的な正義の衝動である「守りたい町を守る」という道を歩んでいった。ラモーンズが自分たちの音楽で、かつてのロックンロールを取り戻そうとしたように、スパイダーマンというヒーローは「町を、人々を守る」というしがらみのない純粋な正義感のもとに活動していくことを選んだのだ。

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以上の点から、今作におけるスパイダーマンは、ラモーンズ、そして彼らが生み出したパンクロックのように突如としてMCU世界に現れた“純粋で衝動的なヒロイズム”を我々にもう一度思い出させてくれる存在なのだと感じる。筆者が『スパイダーマン:ホームカミング』を観て、非常に清々しい気持ちになったのは、ここに大きな理由がある。

コミックにおいてもMARVELの一連の作品は、等身大のヒーローを描くことに徹底してきた。今作の評価すべき点は、ティーンエイジャーだからこそ感じる等身大のプリミティブなヒロイズムを表現するにあたり、ティーンエイジャーの代弁者であったラモーンズの音楽を効果的に使った点である。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのように、映画内にジュークボックスのようにカラフルにポップミュージックを散りばめる音楽起用法ももちろん楽しいのだが、今作のように無骨に一曲に作品のテーマを込めていくのも、またひとつの音楽の使い方と気付かされた。

※1:厳密にクイーンズ出身なのはジョーイ。ジョニーはクイーンズを含む4つの群からなるロングアイランド出身。ディー・ディーはニュージャージー州のフォートリー出身。トミーはハンガリーのブダペスト出身でアメリカに移住してきた。

※2:初期こそはエルヴィス・プレスリーなどに影響を受けたロックンロールバンドであったビートルズであるが(結成当初はリーゼントヘアーに革ジャンのときもあった)、キャリアを経るにつれて、ヒッピー文化やサイケデリックなどを吸収していき、ポップミュージックからよりアート志向へ音楽的進化を見せていた。そのような流れはロック界全体として見え、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、ジェファーソン・エアプレイン、レッド・ツェッペリン(『マイティソー:バトルロイヤル』のトレイラーで流れる『移民の歌』でお馴染みのバンド)のようなサイケバンドや、ピンクフロイドのようなプログレッシブロックバンドなどが活躍した。

※3:2001年発売された海外版『ラモーンズの激情』リマスターCD(R2 74306)内のドナ・ゲインズ氏のライナーノーツより。訳は当記事筆者による。

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